本申請研究は,次世代の神経用途電極の可能性として,カーボンナノチューブ(CNT)バンドルを用いた新規電極の開発を行い,その神経インターフェイスとしての性能を,生体神経細胞・組織を試料とした生理学実験によって評価することである。最終3年目となる本年度は,我々の提案するCNTバンドル電極が,細胞内のみならず細胞外電極としても使用可能な特性を持ち得るかを検証するため,①CNTバンドル部を先端径1~5ミクロンおよび長さ50~300ミクロンに太束・長針化して作製し,これらを用いて,②脳組織の機械的特性と同程度以上(0.5~1%)に調整したアガロースゲル内部への刺入試験,③リン酸緩衝生理食塩水中および人工脳脊髄液中におけるサイクリックボルタンメトリ,インピーダンス分光,パルス電流通電に対する界面電位応答の測定を行った。その結果,今回作製した電極が組織刺入に対する十分な機械的強度を持ち,また同じ幾何表面積を持つ白金電極よりも一桁以上高い電荷注入能と低い液界面インピーダンスを持つ事が明らかとなった。続いて,マウス大脳皮質切片試料における近赤外顕微観察では,④電極先端を組織内約100ミクロンの深部へ刺入した時にも電極の顕著な変形は無く,⑤通常の細胞外刺激に用いるパルス状電流印加による電極・組織変性も,少なくとも5時間程度の間には確認されなかった。さらに,上記の細胞外電流刺激によって大脳皮質の興奮性神経活動を誘起できることが,細胞内Ca2+イメージング法を用いた生理学実験によって示された。これらの成果を国内外の学会等で発表した。加えて,別の生理学実験において,8)大脳皮質内神経細胞の活動電位発火を細胞外単一ユニットとして記録することに成功した。以上により,我々が独自開発したCNTバンドル電極が,細胞内刺入型および細胞外組織刺入型の神経用途電極として有用であることが実証された。
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