研究概要 |
交通事故等による頭部外傷は脳神経損傷を引き起こす.脳表の大脳皮質と脳底部の脳幹を連絡している軸索が,回転加速度に伴う引張り応力により断裂または損傷し,神経情報伝達が阻害されることが原因である.引張り応力により生じる神経組織の衝撃ひずみが神経細胞間の情報伝達にどのような影響を与えるかが分かれば脳神経損傷の発症予測や発達予防の一助となる.従来,培養神経細胞を用いた衝撃ひずみ負荷実験では,培養面内に無秩序に伸びた軸索の集合体を対象にひずみと軸索損傷の関係が議論されてきた.しかし生体内では,大脳皮質や脳幹といった脳の部位に応じて一定方向かつ直線的に軸索が伸びているため,軸索に対するひずみの作用方向を考慮した実験系が必要不可欠である.本研究では,軸索損傷を定量的に解析するため,微細加工技術を応用することで神経細胞の配置や軸索の伸長方向を培養段階で誘導し,衝撃ひずみ負荷装置に培養基板を組み込むことで軸索に対するひずみの作用方向を制御する.本年度は,生体適合性材料であるPDMS (Polydimethylsiloxane)を用い,細胞サイズと同等なマイクロトンネル構造を細胞培養面に加工することで,神経突起の伸長方向を制御可能であることを示した.また,リニアアクチュエータとPID制御を組み合わせ,~50%のひずみと~50/sのひずみ速度を負荷可能で顕微鏡下の観察が可能な衝撃引張装置を作製した.本成果を踏まえ,次年度は形態観察や免疫蛍光染色による軸索損傷の定量解析を行っていく.
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