本研究は、癌細胞膜に選択的に融合する新しい蛍光金属錯体型糖鎖を創製し、この糖鎖の癌細胞ターゲッティングへの有効性を明らかにすることを目的とする。そのために平成22年度は、生体膜融合特性を示す新規な金属錯体型糖鎖をデザイン・合成した。金属錯体型糖鎖には、分子認識能を付与するための糖鎖部分、蛍光発光特性を付与するための金属錯体中心部分、生体膜融合能を付与するための脂質部分、の3種類のパーツを組み込むこととした。まずは糖鎖部分にラクトース(Lac)を、金属錯体中心部分にルテニウム(Ru)を、脂質部分にリン脂質(DPPC)を用いた金属錯体型糖鎖を合成した。合成過程において、糖鎖を修飾したビピリジン誘導(2Lac-bpy)と、脂質を修飾したビピリジン誘導体(DPPC-bpy)を合成し、核磁気共鳴法と質量分析法(ESI/TOF)で同定した。続いて、Ru(DMSO)_4Cl_2に2当量の2Lac-bpyと1当量のDPPC-bpyを逐次に加え、金属錯体型糖鎖[Ru(2Lac-bpy)_2(DPPC-bpy)]Cl_2を得る方法を検討した。重水中における逐次錯形成反応を核磁気共鳴スペクトルで観察した結果、2Lac-bpyとDPPC-bpyがルテニウム錯体に配位したことを確認できた。また、この金属錯体型糖鎖が緩衝液中で蛍光を示すことを確認した。さらに、糖脂質とリン脂質を含むリポソームの形成条件を検討したところ、エクストルージョン法を利用して糖脂質を含む安定なリポソームを形成することができた。
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