ナノマテリアルは、組織浸透性や電子反応性、強度・硬度の点で従来までのサブミクロンサイズの素材には無い革新的機能を発揮する。このため、種々産業に革命を起こす新素材になり得るものと期待されている。一方で、周知の通り、革新的機能が、逆に、予測しにくい負の生体影響を誘発する可能性が指摘され始めている。従って、ナノマテリアルの安全性評価やそれを基盤とした安全なナノマテリアルの創製が急務となっている。本研究は、食品中ナノマテリアルに焦点を絞って、物理化学的性状(粒子径・形状・表面電荷等)に起因した胎児・幼若マウスにおける体内吸収性/体内動態と生体影響の連関、ならびに生体に影響を及ぼすのであればその発現機構を明らかにし、最終的にこれらの情報を基盤として安全なナノマテリアルが具備すべき条件の抽出と安全性を予測する方法の開発を試みるものであり、国民の健康確保、安心と安全の保障の観点で、極めて社会的ニーズの高い取り組みである。H22年度までに、代表的な食品ナノマテリアルである非晶質ナノシリカを経口・経鼻曝露した際の生体影響を、幼若マウスを用いて評価し、(1)ナノシリカを経口曝露した幼若マウスでは、一過性の体重減少が認められること、(2)ナノシリカを経鼻曝露したマウスでは、血液凝固系が活性化する傾向があること、(3)これらの減少は、300nm以上のナノシリカを投与したマウスでは認められないこと、などを見出している。また、H23年度は、これらを受けて血液生化学検査を実施し、粒子径の減少に比例して肝障害が増強することを見出している。以上の事実は、ナノシリカがサブミクロンサイズの従来素材とは異なる生体影響を誘発する可能性を裏付けている。今後は、脳神経系や免疫系などに対する影響を中心に、より詳細な安全性評価を推進する予定である。将来的には、これらの情報を活用することで、食品中ナノマテリアルの胎児・乳幼児に対する安全性を最大限に確保しつつ、ナノマテリアルの社会受容の促進やナノ食品の開発支援を実現するものと期待される。
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