(1)作製した表面の物性評価:FT-IR/ATR法によるグラフト量の測定、表面濡れ性(接触角)の評価をおこない、PIPAAm固定化PDMS表面の特性を明らかにした。ESCA(X線光電子分光分析装置)による表面分析では、PIPAAmの固定化を確認するとともに、大気環境下においてPIPAAmがPDMS層に一部、もぐり込み、液中においてPIPAAm鎖が現れる性質を有する可能性が推測された。実際、原子間力顕微鏡(AFM)による大気中および液中環境下におけるPIPAAm-PDMS表面の観察の比較から液中測定(20℃および30℃)において、PIPAAm由来と思われるパーティクル様の形状がより鮮明に観測できたことからも、その可能性が強く示唆された。 (2)収縮時および伸張時におけるPIPAAm層の膜厚の評価:基材PDMSの収縮、伸縮にともなうPIPAAm層の固定化密度および接触角変化について新たに作製した専用のデバイスを用いて評価を行った。その結果、伸展させた方の固定化密度が低く、接触角はより疎水性を示す傾向を示した。この結果より、伸展により固定化密度が減少し、その結果、疎水性が向上したことが考えられた。当初、予定していたエリプソメトリーによる膜厚評価は、依頼分析を行った結果、超薄膜のPIPAAmを測定するには非常に薄い膜厚であることから、本測定には適さないことが判明した。 (3)伸縮、収縮による細胞接着性、剥離性の評価:これらの結果をもとに伸張させたPIPAAm-PDMS表面で細胞接着および剥離の評価を行った。PPIAAm-PDMSを伸展させた場合と伸展させない場合のそれぞれの状態で細胞を播種し、細胞接着および剥離挙動の評価を行った。その結果、細胞播種後24時間の細胞接着性はPIPAAM-PDMSの伸展、非伸展に関わらず同等であった。一方、細胞播種24時間後からの細胞剥離挙動は伸展させた表面から細胞剥離がより遅かった。この違いは伸展により見かけの固定化量が減少したためと考えた。この結果も上記の考察を支持した。
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