当該研究では、キレート作用を有するイノシトールリン酸(IP6)を利用し、従来の水酸アパタイト(HAp)セメントとは異なったメカニズムで硬化する新規の骨修復セメントを作製し、さらにIP6の有する抗腫瘍効果を応用して、新たな機能を付与させた次世代型骨修復セメントを開発することを目的とした。本年度実施した具体的な研究項目を示す。 1) in vivoにおけるキレート硬化型骨修復セメントの生体適合性の評価。2) キレート硬化型骨修復セメント上での成長因子を介した抗腫瘍効果の検証。 1) ウサギ脛骨骨端部へセメント試料片を24週間埋入したin vivo評価では、セメント試料片の周囲において、多くの新生骨が観察され、セメント試料片と骨とが線維性の組織を介在することなく、直接結合することを明らかにした。さらに、埋入期間が経過するにつれて、セメント周囲の新生骨の量は増加し、骨組織が成熟していく様子も観察され、キレート硬化型アパタイトセメントは優れた生体活性、生体適合性を有することが明らかになった。 2) IP6による破骨細胞への影響を検証した結果、これまでの研究結果と一致し、高濃度のIP6溶液を細胞へ処理すると、細胞生存率を低下させることが明らかになった。すなわち、処理濃度によって、IP6は破骨細胞に対しても細胞毒性を示すことがわかった。IP6を処理し、破骨細胞の増殖を抑制、活性化を阻害することで、骨からの局所的な成長因子の放出を減少させることが可能となると考えられた。一方、IP6-HApセメントを用いた場合、破骨細胞の吸収によりIP6の放出を期待したが、HApは安定で破骨細胞による吸収、それによるIP6の放出は微量であると考えられた。破骨細胞によるセメントの吸収およびIP6の放出は、出発物質をHApからリン酸三カルシウム(TCP)へ変更するのが望ましいということがわかった。
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