本年度では、ヤママリンを添加する前段階として高分子ポリエチレングリコール(PEG)を既存の臓器保存液(リン酸緩衝ショ糖液:PBS)に添加し、細胞レベルにおけるPEGの有用性を検討した。測定項目には細胞生存率を評価するための乳酸脱水素酵素(LDH)活性および細胞内代謝を評価する目的でアデノシン三リン酸(ATP)活性を用いた。培養細胞をPBSと1g/LのPEGを添加したPBSで保存した場合のLDH活性と細胞内ATP量を比較した時、24時間後において1g/LのPEGを添加したPBSで保存した場合の方が良好な結果を示すことが判明した。そこで、添加するPEGの量を0.5g/L、20g/L、40g/Lと変化させた場合におけるLDH活性と細胞内ATP量をPBSと比較検討した。臓器保存液に添加するPEGの容量を増加させることによって細胞からのLDHの放出量は容量依存性に減少し、また細胞内ATP量は容量依存性に増加した。PEGの効果は0.5g/Lの濃度では認められず、1g/L以上の濃度で認められた。さらに、1g/Lよりも20g/L、40g/Lの濃度においてその効果はより強く認められた。 上記の結果より、最も細胞保護効果が認められた1、20、40g/LのPEGを加えたPBSとUW溶液について、保存開始から24時間後におけるLDH活性と細胞内ATP量を比較検討した。1g/LのPEGを加えたPBSとUW溶液の間には有意差が存在したが、20g/L、40g/LのPEGを加えたPBSとUW溶液の間には有意差は存在しなかった。したがって、20g/L、40g/LのPEGを加えたPBSは標準的臓器保存液であるUW溶液と細胞レベルでは同等の臓器保存効果を示すことが示唆された。次年度はヤママリンを追加し最良の保存効果を示す組み合わせを検討する予定である。
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