研究概要 |
皮膚の疾病のなかでも最も死亡率の高い“悪性黒色腫”と“良性の黒子”の識別は非常に難しい.一般的には,ダーモスコープと呼ばれる拡大鏡が用いられるが,その識別には多くの経験を要する.研究目的は,黒色腫を定量的に識別できる装置の開発と,その識別方法の確立である.識別の指針は,癌腫瘍の成長にともなう血管新生を発見することである.新生血管は,癌細胞の増殖を促すため血液の流速が通常よりも速いと考えられる.一方,黒子はメラニン細胞やヘモグロビンの濃度が高いことが原因であり,黒子の血流速度は通常と変わらないものと推測できる.この血流速の違いにより両者を判別することが可能になると考えられる.研究では,血流速に基づいた血管の走行の3次元イメージ(血流速画像)を取得できる装置(マイクロ・マルチレーザードップラー血流速計)を開発し,悪性黒色腫の画像化を行った.結果,腫瘍にともなう新生血管の血流速は,正常な真皮の毛細血管や皮下組織の微小血管のそれよりも非常に速いことが実験的に確かめられた.また,腫瘍が肉眼では確認できない初期段階でも血流速画像では,鮮明に腫瘍の形状を映し出すことができた.さらに,臨床での応用を見据え,現行の透過型装置から反射型装置への変更を行った.反射型装置においても皮膚の血流速画像を取得可能であることがわかったが,皮膚表面でのレーザー光の乱反射が原因でS/N比が低下し検出感度が悪くなる課題が残った.次年度は,この課題についても取り組む計画である.
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