研究概要 |
悪性黒色腫(メラノーマ)は皮膚の疾患のなかで最も死亡率の高い疾患であるが,リンパ節転移前に腫瘍を適切に切除できれば完全に治癒できる.よって早期発見が極めて重要である.一般的に黒子との識別にはダーモスコープと呼ばれる拡大鏡を用いて,色,形状などを基準に識別するが,その識別には多くの経験を要する.研究目的は,メラノーマを定量的に識別できる装置の開発と,その識別方法の確立である.研究では,血流速に基づいた血管の走行の3次元イメージを取得できる装置(マイクロ・マルチレーザードップラー血流速計)を開発し,メラノーマの可視化を行った.実験用マウスに移植したメラノーマの腫瘍を初期段階(移植後9日)で可視化すること成功した.また,腫瘍の大きさが直径3ミリメートル程度まで成長した段階(移植後12日)において腫瘍内部にメラノーマ特有の新生血管を可視化することにも成功した. メラノーマ細胞が皮膚に移植されて腫瘍が成長する過程における血流速度の変化についても詳細に調べた.細胞を移植してから僅かな期間(9日)で移植箇所の細血管の血流速は移植前の2倍以上になった.この活発な血流は,癌細胞の急激な増殖に必要な,酸素,栄養素,および代謝を担っていると考えられる.その後,癌腫瘍は急速に成長し腫瘍内部にも直径0.1-0.2ミリメートルの新生血管が形成させるとともに腫瘍付近の細血管の血管走行も大きく変化した.以上の結果より,本研究で開発したマイクロ・マルチレーザードップラー血流速計を用い細血管の血流速の急激な変化や血管走行の変化を調べることでメラノーマを早期に識別できると考えられる.以上の研究成果は,学術論文として米国物理学協会論文誌Biomicrofluidicsへ投稿した.
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