制動輻射をプローブとした粒子線治療における飛程モニタリング手法の確立を目指し、初年度は制動輻射測定におけるバックグラウンドの寄与を定量した。バックグラウンドとしては、(1)「熱中性子由来のガンマ線」(2)「高エネルギーガンマ線の散乱線入射・コンプトンエスケープイベント」が考えられ、(1)及び(2)について、それぞれ実験及びシミュレーション計算による定量を行った。(1)の実験では、実際に粒子線治療に用いられている290MeV炭素ビームを水ファントムに入射し、高いエネルギー分解能をもつCdTe半導体検出器を用いて、検出器の周囲に熱中性子遮蔽材を設置した場合と設置しない場合について制動輻射/ガンマ線を測定した。その結果、両者の比較から熱中性子由来のガンマ線の影響はおおよそ200keV以上のスペクトルに現れた。観測対象とする制動輻射はおおよそ100keV以下のスペクトルに現れることから、制動輻射測定への影響はほぼ無視できることがわかった。(2)については、GEANT4を用いたモンテカルロシミュレーションにより推定を行った。この計算では、高エネルギーガンマ線の主要成分が破砕反応により生成された陽電子放出核種由来の陽電子消滅ガンマ線(511keV)であると考えられたため、その強度には上記実験系の実測値を用いた。この結果、散乱線入射・コンプトンエスケープイベントの量は制動輻射成分のおおよそ100分の1であると推量された。以上の結論として、制動輻射測定におけるバックグラウンドと予測される成分(1)及び(2)ともにプローブとして観測対象とする制動輻射と比較して十分小さい強度であり、本手法の実現の可能性を確固たるものにできた。
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