本研究の目的は、1)前頭葉性失書例の読み書き障害の特徴と病巣を詳細に評価し、その発現機序を明らかにすること、2)前頭葉性失書例に対し発現機序を踏まえた書字訓練法を考案し、訓練を行いEB-Rを明らかにすること、の2点である。 本年度は、前頭葉性失書例に対し発現機序を考慮した書字訓練の教材を作成するにあたり、健常人の音読成績を検討した。前頭葉失書と深い関係がある音韻性失読の検討で用いた仮名一文字、有意味語、その単語の文字順を入れ替えた置換綴り、無意味綴りの4種類の刺激を用いて、健常人がこれらをどの程度正しく音読できるかを検討した。その結果、前頭葉に病巣を持つ失語症例ほどではないが、単語の文字順を入れ替えた置換綴りは健常人でも読み誤りがみられることがわかった。また、教材作成にあたり、教材に用いるべき単語属性を検討した。その結果、単語の親密度の高い単語は音読成績が良好であることがわかった。また単語の表記妥当性も音読成績に影響していた。そこで、教材として用いるべき単語は、NTTデータベース「日本語の語彙特性」から、親密度4.0以上、仮名表記妥当性4.0以上の4文字の仮名単語を用いることとした。 また、本年度の検討により、脳血管障害による失語症例のみならず、大脳変性性疾患による失語症例においても前頭葉性失書および音韻性失読を呈することがわかった。音韻性失読の存在は、大脳変性性疾患においても、その機能低下の脳領域を推定することに用いることができると思われた。また、大脳変性性疾患における失語症例に対する機能維持のためのリハビリテーションの一助となる可能性が考えられた。
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