研究概要 |
糖尿病神経障害、網膜症、腎症は糖尿病の3大合併症であり、糖尿病はこれら細小血管に障害をもたらすことが分かっている。運動療法は糖尿病治療の柱を担っているが、運動強度が高くなるにつれ、陸上運動中の腎血流量は減少し、腎負担を高める。水中運動においては腎血流量が保たれることが報告されており、水中環境において行う運動は腎に対する負担度が減少し、合併症の予防にもなると考えられる。そこで今期は、水中における座位ハンドエルゴメーター運動が心臓自律神経系活動ならびに尿中成分に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。健常成人10名を対象とし、水中にてハンドハンドエルゴメーター運動を行う水中(W)条件、陸上にてハンドエルゴメーター運動を行う陸上(L)条件の2条件を設定し、40%VO_2maxハンドエルゴメーター運動を施行し、運動終了後30秒間の回復を行った。運動時に酸素摂取量(VO_2)および自覚的運動強度(RPE)を、運動時および回復時において心拍数、副交感神経系活動および心拍減衰時定数(T30)を測定した。また糖尿病患者6名を対象として、同様に測定を行い、前述の項目に加え運動前後の尿中成分を検討した。VO_2,RPEおよびRTは2条件間で有意差を認めなかった。安静時心拍数は、L条件に比べW条件で有意に低値を示した。運動時心拍数は、条件間に有意差を認めなかったが、常にL条件に比べW条件で低値を示す傾向がみられた。心臓副交感神経系活動は、健常者では運動時および回復時に条件間に有意差は認めなかったが、L条件と比べW条件が高値を示す傾向がみられた。糖尿病患者では、L条件と比較してW条件が有意に高値を示した。T30は、健常者ではL条件に比べW条件が有意に低値を示した。水中における座位ハンドエルゴメーター運動は、静脈還流量の増加および副交感神経系活動の亢進が生じ、運動終了後心拍数の回復を一層早める可能性が示唆された。
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