研究概要 |
随意運動に伴う血圧や心拍数の上昇は中枢性と末梢性の影響が考えられる。前者は、随意運動指令が高次脳中枢から発信されその信号が脳幹、脊髄を経て末梢筋を収縮させ運動を起こすと同時に、自律神経系を興奮させ、心交感神経活動の増加と副交感神経活動の減少により心拍数を増加させる。一方、後者は筋の物理的変形および代謝産物の蓄積により筋機械受容器と筋代謝受容器が刺激され、その信号はGroup III、IV群求心性線維を介して循環調節中枢へフィードバックされ反射的に血圧を上昇させる。脳梗塞や脳出血などの脳血管障害により中枢運動指令が減弱あるいは消失する場合、末梢筋受容器反射の役割の変化については明らかではない。本研究は除脳ラットを用いて、中枢からの信号が遮断された時の末梢筋受容器反射、特に筋機械受容器反射の変化について調べた。実験用ラットは麻酔下で左外頸静脈と頸動脈を剖出し、試薬の投与および血圧測定のためにカテーテルを挿入した。ラット下腿三頭筋を剖出し伸張させた状態で、血圧や心拍数の変化を観察した。次に、上丘前縁・乳頭体後縁(precollicular-postmammillary level, Bregma-4.5mm)で除脳した後、同様に下腿三頭筋の伸張を行なった。その結果、除脳前と比較して除脳後では心循環応答が有意に増加した。さらに、血管収縮剤(ノルエピネフリン、フェニレフリン)と血管拡張剤(ニトロプルシド)を用いて圧受容器反射を調べた結果、除脳後では除脳前に比べ反射の感受性は増加傾向にあった。これらの結果より、筋機械受容器反射は高位脳中枢により修飾を受けることが示唆された。以上の結果を踏まえ、来年度は末梢神経電気刺激による誘発筋収縮時の循環応答を観察することで、中枢運動指令の遮断が筋代謝受容器反射に及ぼす影響を明らかにしたい。
|