研究概要 |
昨年度は脳血管障害の危険因子である高血圧の生理学的メカニズムについて調べた結果、運動昇圧反射の亢進に加え、中枢運動指令による循環応答も亢進していることが分かった。しかし、中枢性と末梢性の循環調節の相互作用について不明な点が多く、また高血圧では健常状態と比べてその関係は異なるかどうかは明らかではない。本年度は、ヒト本態性高血圧モデルである自然発生高血圧ラット(spontaneously hypertensive rat, SHR)と対照ラット(Wistar-Kyoto rat, WKY)を用いて、中脳歩行誘発野(mesencephalic locomotor region, MLR)の電気刺激(強度: 20-50 μA)によって誘発される運動に伴う循環応答に加え、坐骨神経(sciatic nerve, SN)の同時電気刺激(強度: motor threshold (MT)の3, 5, 10倍)による循環応答について調べた。ラットは上丘前縁レベルで除脳し、筋弛緩薬(pancuronium bromide)を投与したうえ実験を行った。その結果、SNの刺激強度をx3 MTに設定した場合、MLRの刺激強度に依存した循環応答は変化せず、WKYとSHRでは同様の結果がみられた。一方、SNの刺激強度を上げると(x5, 10 MT)、WKYではMLRによる昇圧反応は減弱したが、SHRでは昇圧反応は逆に増加した。それぞれのラットで脊髄後根神経活動を記録すると、SN刺激強度の増加に従いI, II群に加えIII群神経線維の発火が認められた。以上の結果をまとめると、WKYでは筋受容器反射によって中枢性の昇圧反応は減弱されるが、SHRでは減弱されないことから、その抑制の障害が高血圧をもたらす一つのメカニズムであることが示唆された。
|