現存の社会的問題の背景には、自己意識の歪みや偏り、あるいは自己意識をベースとした自己内省能力の低下が要因として挙げられている。今回、脳神経科学分野においていまだ明らかではない自己意識と自己内省の実能を明らかにすることを目的に、自己内省課題実行中の脳活動をfMRIによって計測し、脳活動と自己意識尺度並びにパーソナリティ検査結果の相関を解析することで、自己意識傾向およびパーソナリティタイプによる内省時の脳活動の違いを検討することにした。 平成22年度は実験課題作成と予備実験実施、および実験システムの構築を行った。実験課題作成にはPresentation (Neurobehavioral Systems社製)を使用し、画面サイズ・課題提示位置・呈示時間等の精密な設定・管理を行った。本実験にさきだち、より明確な脳活動を引き出せると考えられる顔認知課題を用いた予備実験を女性被実験者16名に対し実施した。顔写真は成人男女の白黒画像24枚を用意し、イベントデザインにてこれらの画像を各3秒ずつランダムに提示した。被実験者には実験前に自己意識尺度(Fenigstein、1975;菅原、1984)と新版STAI(状態-特性不安検査:State-Trait Anxiety Inventory-form JYZ)を実施し、これらの紙面検査結果と脳活動との相関を分析した。その成果、怒りの表情判断時に活動した右一次体性感覚野とSTAT特性不安スコアに、負の相関が認められた(n=13、rs=0.8、p=0.0002)。このことから、特性不安傾向の高いものは表情や感情の読み取りをしにくい可能性が示された。自己意識尺度は被験者間のスコアのばらつきが小さく、明確な相関を得られなかった。次年度はこれらの結果を踏まえ、本実験課題での予備実験ならびに紙面検査選定を行い、本実験を実施する予定である。
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