研究概要 |
理学療法分野の対象者は血管病変を有しているものが多く,脳血管障害患者に対して疼痛軽減や痙縮軽減のために温熱療法や寒冷療法が処方されることが多くみられる.しかしながら,温熱刺激や寒冷刺激が血管内皮機能に影響を及ぼすのかについてはまだ明らかにされていない.そこで本研究では,若年者を対象に温熱刺激や寒冷刺激が血管を拡張する血管内皮機能に影響を及ぼすのかについて実験研究によって明らかにすることを目的とした. 研究の対象者は,健常男性30名(年齢20-21歳)であった.対象者の内訳は喫煙者15名,非喫煙者15名であった.喫煙者群の喫煙歴は喫煙年数1年から5年程度,平均喫煙本数は10~15本程度であった.対象者の中で,RHIに明らかな異常値がある者および脈波の異常な減弱による測定不能者を除外した.その結果,有効なデータは非喫煙者群で13データ,喫煙者群で14データであった. 対象者特性は,体重62.9±8.8kgBMI20.9±2.6,体脂肪率13.6±5.8%,骨格筋率36.7±6.9%であった.RHIは非喫煙者群で安静時2.14±0.58,温熱刺激後1.99±0.53,寒冷刺激後1.93±0.54であった。喫煙者群では,安静時1.70±0.32,温熱刺激後1.85±0.46,寒冷刺激後1.95±0.66であった.非喫煙者群と喫煙者群の比較では,対応のないt検定で安静時のRHIにおいて有意差が認められた(p<0.01).安静時と温熱刺激および寒冷刺激後の比較では,一元配置分散分析および多重比較検定において有意差は認めらなかった.また,身体活動量は2066.1±849.3kcal,体重1kg当たりの身体活動量は33.2±7.8であった。 本研究の結果,体組成分析において,過度なやせおよび肥満は認められず,体格は全対象者でマッチされた対象者を集めることができたと言える.体重1kg当たりの身体活動量は大きなばらつきはなく,対象者は同一の代謝条件で測定が行えたと考えられる.RHIは安静時に喫煙者と非喫煙者の間で有意差が認められた.若年者であっても喫煙による科学的な血管内皮のダメージは血管内皮由来の血管拡張機能に影響を与えることが示唆された.安静時と温熱および寒冷刺激後のRHIは有意な差を認めなかったが,非喫煙者では安静時より物理刺激後にRHIは低下し,喫煙者ではRHIは増加するという傾向が見られた.喫煙の有無や物理的刺激の条件によって血管内皮機能に差が出る可能性が考えられる.
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