本研究は、オペラント学習による筋力増強運動モデルマウスを用いて、萎縮筋に対して筋力増強運動を行い、筋衛星細胞の活性や筋構成タンパクの合成の関与を細胞生物学的に明らかにし、その現象を指標に最も効率的に筋萎縮を回復促進させる筋力増強運動の方法を開発することを目的としている。 まず、初年度となる平成22年度には、筋力増強運動によって、萎縮した筋の筋線維横断面積の回復が促進され、筋の核数が正常値以上に増加することを確認した。具体的には、14日間の尾部懸垂により後肢筋を萎縮させたマウスに、筋力増強運動として予めオペラント学習により習得させた立ち上がり運動を7日間行わせた。その結果、尾部懸垂により減少した筋線維横断面積は、筋力増強運動を行わなかったマウスよりも有意に大きく、正常な大きさまで回復した。また、尾部懸垂によって減少した筋線維あたりの筋の核数が正常値の1.5倍以上の値を示した。一般に、既に成熟した筋の核は、分裂や増殖をしないといわれている。よってこの筋の核数の増加には、筋衛星細胞などから新生した細胞が、既存の筋線維へ融合する現象が関与していると考えられた。そこで、14日間の尾部懸垂後4日間の筋力増強運動を行い、新生した細胞の有無や新生の時期を5-ethynyl-2'-deoxy-uridineを用いて調べた。その結果、4日間の筋力増強運動後の筋線維には新生した核が認められた。また、細胞が新生して既存の筋線維に融合する現象が、運動開始2日後の約2日間という短期間に起こっていることも判明した。 以上の結果より、筋力増強運動による筋萎縮からの回復促進過程で、筋に起こっているメカニズムの一部が明らかになった。しかし、当初の目的である最も効率的に筋萎縮を回復促進させる筋力増強運動の方法の開発は未だ達成できていない。今後は、これらの結果を基に、筋衛星細胞の分化や融合を指標として効率的な筋力増強運動の方法を検討していく必要がある。
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