本研究は、下肢不動化後の痛覚過敏行動の拡大に関わる神経可塑性機序の一つとして脊髄グリア細胞の動態に注目している。ラット片側後肢をギプス固定する不動化モデルを作製し、痛覚過敏行動拡大と脊髄グリア細胞の活性化の関係について解析を行った。これまでに、本実験モデルにおいて、固定部局所より離れた足底部へ両側性の機械痛覚過敏行動が出現するギプス除去後1日目に、第4腰髄においてミクログリアの活性化が確認された。また足底部の両側性の機械的痛覚過敏行動が極大を示すギプス除去後5週目においては、第4腰髄においてアストロサイトの両側性の活性化が認められた。そこで痛覚過敏行動の出現におけるミクログリア活性化の関与を明らかにするため、ミクログリア抑制剤のminocycline(100μg/day、髄腔内投与)をギプス固定8日目から除去後1日目までの計8日間連続投与した。投与後、足底部の機械痛覚過敏行動は、反対側のみ有意に改善した。本実験モデルにおける機械痛覚過敏行動の反対側への広がりは、ミクログリアの活性化により誘導されることが示唆された。現在、痛覚過敏行動の極大期におけるアストロサイト活性化の関与について解析を進めている。神経因性疹痛モデルの痛覚過敏行動は障害側のみであり、脊髄グリア細胞の活性化も障害側のみである。一方、本実験モデルの痛覚過敏行動は、両側性であり、遠位部の尾部にまで広がりを見せる。 これらの相違から肢体不動化後に誘発される慢性痛と神経損傷由来の慢性痛とは、明らかなメカニズムの違いが想定され、新たな細胞内情報伝達系の解明および治療戦略の創成が期待できる。
|