高齢者を対象としたアンチサッケードパフォーマンスと前頭葉活動に対するトレーニング効果、および頚部前屈でのトレーニングの特異的な効果について検討した。被験者は健康な高齢者30名とし、以下の3群に分けた:下顎部を支持台に置いた安静頚部姿勢にてトレーニングを行う群10名(NRT群)、頚部前屈姿勢にてトレーニングを行う群10名(NFT群)、およびトレーニングを行わない群10名(CON群)。NRTおよびNFT群は、30秒間のアンチサッケード試行を1日20ブロック、3週間に渡って実施した。トレーニング前後に、安静頚部姿勢および頚部前屈姿勢にてアンチサッケード課題中の水平眼球運動、Czにおける脳電位および近赤外線分光法による前頭前野における酸化ヘモグロビン濃度を測定した。NRTおよびNFT群において、反応時間、誤反応率およびサッケード前陰性電位のピークとスパイク電位の間の時間がトレーニング後に減少した。NFT群でのみ、トレーニング後に頚部前屈に伴う反応時間短縮が認められ、サッケード前陰性電位のピーク振幅のトレーニングに伴う有意な増大が両頚部条件において認められた。酸化ヘモグロビン濃度は、トレーニング前後ともにいずれの被験者群でもアンチサッケードの遂行に伴って増加した。NRTおよびNFT群ではトレーニング後にその増加量が小さくなる傾向が認められたけれども、トレーニングおよび頚部前屈姿勢の有意な影響は認められなかった。CON群では、トレーニング前後の測定値にいずれの変化も認められなかった。アンチサッケードのトレーニングがパフォーマンスを改善し、それに関連した神経経路を促通することが示された。さらに頚部前屈でのトレーニングでは、そのパフォーマンスと前頭葉活動に、小さいけれども相乗的な効果が認められた。ただし、これらのトレーニング効果は、アンチサッケードが自動的になるほど十分ではなかった。
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