研究概要 |
本研究では,2年間の研究機関を設け,初年度は健常者を対象に,脊髄運動ニューロンに収束する神経経路と脊髄運動ニューロン間のシナプス伝達効率がすでに脳において実証されているシナプスの学習則(シナプス前細胞からの興奮性入力とシナプス後細胞が興奮する時間的前後関係に応じてそのシナプスの伝達効率が増強または減弱する)に基づいて変化するか検討することであった. ヒラメ筋の脊髄運動ニューロンへシナプス結合している皮質脊髄路を対象とし,運動野への経頭蓋磁気刺激(皮質脊髄路)と後脛骨神経への電気刺激(Ia求心性経路)をペア刺激とした連続的な介入刺激を行った.介入刺激は0.2Hzの頻度で180発,15分間刺激を行った.ペア刺激の間隔は,予め予備実験を行い,安静閾値化の経頭蓋磁気刺激に対して後脛骨神経への電気刺激より誘発されるH反射が最も促通される時間間隔(平均で約1.5ms後脛骨神経への電気刺激が先行し,脊髄運動ニューロンにおいて皮質脊髄路からの入力がIa求心性経路からの入力よりも先行する,条件1)と脊髄運動ニューロンにおいてIa求心性経路からの入力が皮質脊髄路からの入力よりも先行する時間間隔(条件2)を決定しておき本実験で採用した.その結果,ペア刺激による介入直後,条件1ではヒラメ筋から得られる運動誘発電位(安静閾値の120%で刺激)が平均で約170%に増大し,条件2では約78%に減少した.一方,ヒラメ筋から得られるH反射は介入刺激の前後で変化しなかった.本研究の結果は,本研究で用いた介入刺激が皮質脊髄路から運動ニューロンへ投射するいずれかの部位を可塑的に変化させたことを示している.しかしながら,本研究の結果が本研究で目的としている皮質脊髄と脊髄運動ニューロン間のシナプス結合強度によるものかを証明するためには,さらに検討が必要である.
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