ヒトの姿勢制御則について検討した先行研究の大半は、静的立位時の身体を、足関節を唯一の回転中心とした倒立単振子としてモデル化している。一方、最新の研究報告によると、静的立位時には、足関節のみならず、股関節まわりにも顕著な関節運動が生じており、股関節まわりの運動が姿勢の制御において重要な役割を担っていることが示唆されている(Sasagawa et al.2009 Neurosci Lett)。本研究では、静的立位時において股関節まわりに運動が生じる機序について、力学的な観点から明らかにすることを目的とした。被験者は、60秒間の静的立位姿勢保持を、開眼および閉眼条件で各々5試行おこない、その間の足関節および膝関節まわりの関節運動を、3次元モーションキャプチャ装置を用いて測定した。足関節および股関節まわりの関節運動の大きさを比較したところ、角度変位では、後者は前者の1.5倍程度であり、角加速度では、後者は前者の2.5倍程度であった。一方、逆動力学計算により両関節まわりのトルクを算出したところ、足関節では平均30Nm程度の底屈トルクが発揮されていたのに対し、股関節におけるそれは、5Nm程度(屈曲もしくは伸展方向)であった。次に、induced acceleration analysisを用いて、股関節まわりにおける角加速度の生成に対する、足関節および股関節トルクの貢献度について検討したところ、前者の貢献度は後者のそれに対し1.6倍程度であることが明らかになった。すなわち、静的立位時における股関節まわりの運動は、股関節トルク以上に、足関節トルクの影響を強く反映しているといえる。
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