本研究では、幼若期ストレスによる前頭前野の発達障害と情動異常は、幼若期に運動をすることで阻止できるという仮説を形態学的、機能的、行動学的に証明し、さらに、そのメカニズムにおけるセロトニンの関与を検証する。本実験では雄性Sprague-Dawleyラットにおける早期離乳(生後14日齢)を幼若期ストレスとして用い、正常離乳群、早期離乳群、早期離乳直後から自発運動をさせた群(運動群)の3群で比較検討を行った。生後28日齢における免疫染色では、早期離乳群の前頭前野における抗serotonin transporter抗体、抗dopamine beta-hydroxylase抗体、抗tyrosine hydroxylase抗体免疫陽性神経線維密度の減少が認められたが、運動には改善効果があった。また、早期離乳群には生後28日齢と9週齢の両時期でオープンフィールドでの活動量増加が認められた。一方、運動群は28日齢における活動量は増加していたものの、9週齢では改善されていた。赤外線モニターを用いて計測したホームケージ内での活動量や、高架式十字迷路試験で評価した不安行動は、3群間に差はなかった。前頭前野の発達を形態学的に評価するための実験は、現在遂行中である。 本年度の研究結果から、早期離乳はセロトニンのみならず、ノルアドレナリンやドーパミンの神経線維にも影響を及ぼしていることが示唆された。モノアミンは脳機能の発達に重要な役割を担っているため、その異常は前頭前野の機能発達に影響することが推測される。また、前頭前野は行動制御機能に関わっており、注意欠損多動症などの疾患との関連が注目されている。早期離乳によるモノアミン神経線維減少や活動量の増加、さらに、それらに対する幼若期運動の改善効果はこれまでに報告がなく、これらのメカニズム検証は行動制御の機能発達を解明する糸口となることが予想される。
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