本研究では、幼若期ストレスによる前頭前野の発達障害と情動異常は、幼若期に運動をすることで阻止できるという仮説を証明する。前年度までの研究で、幼少期ストレスである早期離乳によって、脳発達に重要な役割を担うモノアミンの神経線維の発達異常が前頭前野で起きるが、幼少期に運動をすることでそれが阻止されることを確認した。本年度は、前頭前野の発達を形態学的に評価するため、ニッスル染色とGolgi染色を施し、前頭前野の層構造と錐体細胞の形態を解析した。早期離乳による層構造の変化は検出されなかったが、錐体細胞の突起の全長と分岐数の減少が確認された。この変化は幼少期.に運動をした動物には認められなかった。また、前年度までの実験で、早期離乳を受けた動物は新奇環境下での活動量が増加するが、早期離乳を受けても幼少期に運動した動物では、新奇環境下活動量の増加が成熟後に改善されることを確認した。そこで、本年度は、早期離乳をされた動物が「多動症」モデルになる可能性を検討した。多動症の治療薬として使1用されているmethylphenidate hydrochlorideでは、早期離乳による新奇環境での活動量増加は改善されなかった。また、多動症で頻繁に認められる「衝動性」を調べるために、報酬獲得のためのレバー押しタスク試行中における無意味なレバー押しとレバー押しの失敗回数を評価したが、現行タスクでは早期離乳による明らかな衝動性は確認されなかった。今後、早期離乳を受けた動物がどのような疾患モデルとなるのかをさらに追及し、幼少期運動の効果を検証していく。 本研究成果から、早期離乳による(1)前頭前野におけるモノアミン神経線維の発達異常、(2)錐体細胞の形態変化、(3)新奇環境における過活動が、幼少期に運動をすることで阻止・改善されることが明らかとなり、幼少期運動の効果が示された。
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