潜在的な動作不安定性を運動開始時の一過性の脳活動から予測するのが本研究の目的である。今年度は実験モデルとして、周期的な両手非鏡像運動中に生じる両手鏡像運動への突然のパターン遷移現象を取り扱い、いつ起こるか分からない、突然生じるパフォーマンスのエラーを運動開始時の一過性の脳活動から予測しうる脳部位の同定を行った。 被験者18名について、両手非鏡像条件(BP)、両手鏡像条件(BM)で30秒間のタッピング運動を行う際の脳活動を磁気共鳴画像法(fMRI)で記録した。取得した脳活動データを一般線形モデルにより、運動開始に関わる一過性の脳活動成分と30秒間の運動継続に関わる持続性の脳活動成分に分離した。特に、運動開始時の一過性の脳活動の強さについて両手非鏡像条件と両手鏡像条件の差をとり、行動データとの相関を計算した。 その結果、大脳基底核吻側の運動開始時の一過性の活動量の非鏡像条件と鏡像条件の差が、運動開始後20秒経過以降の鏡像運動の動作のばらつきと高い相関(r=0.81)を示した。これは大脳基底核の運動開始時の一過性の活動により、両手非鏡像周期運動での動作の数10秒後のパフォーマンスが予測可能であることを示唆している。また、動作開始直後の行動データのいくつかの指標では、運動開始後20秒経過以降の鏡像運動の動作のばらつきと有意な相関がなかった。すなわち、行動そのものを観察するよりも脳活動を観察したほうが、高い精度で未来の行動パフォーマンスが予測できる可能性を示している。
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