研究概要 |
本研究は、行動そのものからは予測しにくい、将来おこる運動のエラーを運動開始時の一過性の脳活動パターンから予測することを目的とした。本研究が突然の運動エラーの実験モデルとして取り扱うのは、周期的な両手協調運動時の相転移現象である。相転移現象は非同名筋の同時収縮(両手非鏡像モード)を繰り返していると、突然意思とは無関係に同名筋の同時収縮(両手鏡像モード)に切り替わってしまう現象である(Kelso,1984,Am J Physiol)。この両手協調タッピング課題を突然の運動エラーの実験モデルとして採用し、潜在的な動作不安定性を脳活動から予測する手法を開発することを本研究の目標とした。被験者は3Hzの速さのメトロノーム音にあわせて両手鏡像条件と両手非鏡像条件でタッピングを行った。両手非鏡像条件は両手鏡像条件に比べて不安定で、たとえ運動開始後数秒間はミスなくこなすことができても、30秒間の試行中にミスをする被験者がでてくる。それぞれの条件での脳活動を磁気共鳴画像法により計測し、まず計測データを運動開始時の一過性の成分と運動の継続に関わる持続的な成分に分離した。次に、この運動開始時の一過性の脳活動を利用して、課題終盤の期間における運動の乱れを予測した。その結果、大脳基底核被殻前部の活動と将来(運動開始後約20秒経過時からの10秒間程度)の運動の乱れ具合との間に、相関係数0.81という非常に強い相関関係が見つかった。これは大脳基底核の一過性の活動を見れば、高い精度で両手非鏡像運動の将来のパフォーマンスが予測できることを示している。
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