研究概要 |
本研究では,日本の伝統舞踊において「わざ」がどのように継承・習得され,また時間とともに「わざ」がどのように熟達するかを理論的,科学的,総合的に解明することを目的としている.具体的には,動作分析,視線分析,言語分析,行動分析を行い,指導者から学習者へと伝えられる「わざ」の継承,習得,熟達過程を多面的にアプローチする. 本年度は,舞楽『陵王』において舞人が登台後沙陀調音取から当曲音頭までのあいだをどのような「間」で舞うか,またその際龍笛主管奏者の有無や状況により舞人の「間」のとり方がどのように変化するかについて,動作解析と舞人によるアンケート調査により定量的に明らかにするための実験を行った.実験は,4名の舞人に(1)無音,(2)録音に合わせる,(3)龍笛奏者と背中合わせ,(4)龍笛奏者が舞人の背を見ながら同じ向き,(5)龍笛奏者と向かい合わせの計5条件で行い,各5試行ずつ計測を行った. 実験の結果,舞人の「間」のとり方には個人差があるが,その個人差ははじめに習った師ではなくその後一緒に多く練習をした人と似通う傾向があること,龍笛奏者が視認でき,曲の一連の流れを感じることができる条件下の方が舞人は舞いやすく,ゆったりと舞えると感じていることが分かった.実際の舞台の本番中,舞人は面をつけるため龍笛奏者を視認することは難しいが,一元配置分散分析の結果,同じ向き条件と向かい合わせ条件には有意差がなかったため,龍笛奏者が舞人を視認できていれば,龍笛奏者から舞人の「間」をはかり合わせることができると推察される.
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