日本国内での自然環境では増血刺激を生じさせることが可能な標高での滞在やトレーニングは事実上困難であるため、人工低酸素環境を国内高地環境で併用することで増血刺激などの高地トレーニングの効果を生じさせることが可能と考えられる。 そこで、エリート競歩競技者を対象としてこの併用効果について検討することとした。競歩競技者10名を対象として標高1200mにおいて21日間の合宿を行った。対象者のうち、5名(HYP群)は夜間睡眠時(約9~10時間)に人工低酸素環境下(標高3000m相当)に滞在し、残りの5名(CON群)は通常環境に滞在した。HYP群については期間後に平均値としては酸素摂取量の低下(ウォーキングエコノミーの向上)が見られたが、CON群同様期間の前後で有意な差は認められなかった。最大酸素摂取量は試合出場前などの理由で期間後は6名(HYP群3名、CON群3名)のみ実施した。期間前後両方で測定を行った対象者については両群共に有意な差は認められなかった。競歩では歩形維持のための動きの制約などから長距離走の競技者と比較すると最大酸素摂取量は低い傾向にあると考えられるが、競技時間が長時間に及ぶことを考慮すると、最大下強度における酸素摂取量の低下(ウォーキングエコノミーの改善)が競技パフォーマンスとして大きな要因となると考えられる。低酸素環境曝露により最大下強度における酸素摂取量の低下は報告されていることもあり、この点について今後例数を増やして評価をすることが重要と考えられる。
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