前年度の測定デニタに加え、血液検査の検討を追加した。 実験の概要は、競歩競技者10名を対象として標高1200mにおいて21日間の合宿を行った。対象者のうち、5名(HYP群)は夜間睡眠時(約9~10時間)に人工低酸素環境下(標高3000m相当)に滞在し、残りの5名(CON群)は通常環境に滞在した。実験開始前と実験期間中および最終日の早朝に空腹時の採血を実施し、さらに期間中には前日夜から翌朝までの睡眠時の動脈血酸素飽和度(SpO2)を実施した。睡眠時のSpO2は就寝時に装着し、記録を開始させ、経過による変化は就寝時から5~6時間後の1時間の平均値により検討した。 血液検査項目は血球計算、エリスロポエチン、血清鉄、フェリチンなどであった。ヘモグロビン濃度は、HYP群は6日目までCON群よりも有意に高い値となった。その後も一時両群間で差がなくなることもあったが、全体を通してHYP群が高い傾向が見られた。 エリスロポエチン濃度は、両群ともに滞在2日目では期間前と比較して有意に高い値を示した。また、10日目までの値は両群問で比較するとHYP群で高い傾向が見られた。期間の経過とともに両群共に低下傾向を示した。また、両群間の差は17日目には消失していた。 就寝時SpO2は、期間全体を通してHYP群がCON群よりも有意に低い値を示したが、HYP群は2日目に最低値を示したあと、徐々に上昇を示し、10日目以降は2日目の値よりも有意に高い値を示した。 ヘモグロビン濃度の上昇が6日目まで見られた。脱水による血液濃縮が最大の要因と考えられるが、その後は順化の傾向がみられたが、それでもCON群と比較すると継続して高い傾向であった。エリスロポエチンは滞在初期には両群とも上昇した。標高1200mであってもエリスロポエチンの上昇を刺激することが示唆された。HYP群の上昇はCON群を上回るものであり、増血刺激はHYP群のほうが大きかったものと考えられる。しかし、両群共に経過と共に下の水準に戻る傾向が認められ、1200mの高地あるいは人工低酸素環境への順化が認められた。睡眠時のSpO2はCON群でも標高1200mに滞在していることから一般的な平地での値に比べると低いものとなった。HYP群では滞在初期に大きく低下し、その後上昇傾向が見られ、CON群との差は縮まる傾向ではあったが、最後までCONに比較すると有意に低値であった。この測定結果から、滞在10日間ほどで睡眠時のSpO2の点からは概ね順化が完了すると考えられる。
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