研究概要 |
昨年度と同様,テーブルを挟んで実験者と被験者が対面し,中間点にターゲットとなる把持物体を設置した.また,把持物体の左右8cmの位置にLEDをそれぞれ設置した.昨年度の研究では,観察者が実験者の把持運動を模倣する必要が無かった点を考慮し,本年度は,実験者と被験者が試行毎に交互に物体を把持すると共に,被験者が把持する腕は1試行前の実験者の運動の腕に依存していた.実験は予告音によって開始された.まず,予告音(0.5kHz)に続く運動開始音を合図に実験者がターゲットに向けて左右いずれかの腕を伸ばし,把持した.このとき,運動開始300ms後に左右いずれかのLEDが点灯した.被験者は常にターゲット中央の固視点を注視し,フットスイッチを用いて点灯したLEDに対応する選択反応を行った.次の試行では,被験者は運動開始音を合図にターゲットに腕を伸ばし,把持した.このとき,被験者が伸ばす腕は,1試行前の実験者の腕と解剖学的に対応する腕(例,右腕→右腕)もしくは鏡像関係で対応する腕(例,右腕→左腕)がブロック毎に要求された.前回と同様に,鏡像関係で腕の模倣を実施するブロックの最中に,観察者の空間的注意に大きな変化が認められると予想されたが,条件間(解剖vs,鏡像)では左右のLEDに対する反応時間に顕著な差が見られなかった.今回の実験で空間的注意への影響が見られなかった要因として,実験者と被験者の運動の同時性の問題がある可能性がある.すなわち,今回の実験では1試行毎に実験者→被験者→実験者→被験者…と運動が実施され,被験者は1試行前の実験者の運動を模倣することが求められた.このような手続きに比べ,むしろ実験者の運動に合わせて(同時に)被験者が運動を模倣する条件の方が空間的注意への影響が大きいかもしれない.今後,運動の同時性の問題を取り入れた実験を進めていく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今後,実験者と観察者の運動の同時性を検討すると共に,観察者の視点の違いなども考慮に入れた実験を行っていく予定である.また,空間的注意と関連が高い,ペリパーソナル・スペースに関しても他者の運動観察によって影響を受けるかを検討していく予定である.
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