身体近傍空間は多種感覚統合により表象される.本研究は,到達把持運動が手指の身体近傍空間に与える影響を調べた.被験者は物体への到達把持運動と伴に,運動開始前,開始直後,開始200ミリ秒後のいずれかに示指もしくは母指に加えた触覚刺激の選択反応課題を行った.触覚刺激と同時に物体上のLEDが点灯したが,被験者はこの視覚刺激を無視するよう求められた.運動開始前の反応時間は示指と母指の間に差は無かったが,開始直後と開始200ミリ秒後の反応時間は視覚刺激の呈示により示指の方が母指よりも有意に早くなった.この相違は視覚刺激が呈示される空間に依存し,把持物体の手前よりも奥の空間の方が強かった.また,このような視覚触覚干渉が生じる空間は,被験者の視線の変化に影響されなかった.この結果は,ヒトの母指と示指の身体近傍空間は比較的独立しており,到達把持運動によって異なる影響を受ける可能性を示唆する.今後,このような視覚触覚干渉が手の到達運動の観察のみでも生じるかを検討する予定である.
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