研究概要 |
プライオメトリックトレーニング(以下,プライオメトリックス)の種目は,上方または前方といった踏み切る方向,両脚または片脚といった踏み切りの仕方により細分化される.これらのうち,前方へ片脚交互に踏み切るバウンディングは,その遂行能力を評価した立五段跳の跳躍距離が短距離走の疾走速度と高い相関関係を示すことから,疾走能力の改善に不可欠なプライオメトリックス種目といえる.このことは,疾走能力の優劣によりバウンディング特性を比較すれば,疾走能力の低い者が速く走れない原因を知る手がかりになる可能性を示唆する.そこで本研究では,バウンディング踏切時の身体挙動を母子球と身体重心とを結んだ逆振り子運動にモデル化し,最大地面反力を振り子の短縮量で除したスティッフネス(ばね要素)と,振り子が地面と成す角(起こし回転要素)について分析した.その結果,バウンディング踏切時のスティッフネスが高く,振り子の振れ幅が小さく回転が速いほど疾走能力が高い傾向にあることが認められた.また,足関節に着目すると,疾走能力が高い被験者は地面に対して比較的水平に接地をしているが,疾走能力が低い被験者は背屈して踵-つま先の順に接地していることが認められた. これらのことから,バウンディングの遂行能力は「自重を受け止めて素早く跳ね返すための体力的および技術的要因」に影響されていると考えられ,さらに高速で移動する疾走運動においては,短時間での力発揮がより難しくなると予測される.このことが,速く走れない原因の一つになっている可能性が推察される.これらの問題点を解決するには,各種のプライオメトリックスにおいて適切な踏切接地が理解できるよう技術的要因を改善し,疾走運動に主動的な役割を果たす筋に負荷をかけることで体力的要因を向上させていくことが必要ではないかと考えている.
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