本研究課題は、競泳のトレーニング現場で利用することを想定した聴覚フィードバックシステムを開発し、水泳中の加減速情報のフィードバックがパフォーマンス向上に貢献する可能性について議論することを目的とした。競泳競技で用いられるクロール・背泳ぎ・平泳ぎ・バタフライを対象に、泳中の腰部加速度および角速度を計測し、この計測データから推進方向の加減速を推定することを試みた。この結果、平泳ぎにおいて推進加減速を精度よく推定することが可能となった。ここで用いた加減速推定手法は慣性センサ以外の計測および撮影機器を必要とせず、泳加減速を定量化する手法としては簡便かつ十分な精度を有するものであると考えられた。その一方で、平泳ぎ以外の3泳法については十分な精度を得ることができず、解決するべき今後の課題として、さらなる試行錯誤が必要であるものと考えられた。平泳ぎにおいて適用可能となった泳加減速の定量化手法は、慣性センサによる計測からリアルタイムで加減速データの算出は困難なものであったものの、計測した加速度の身体体幹部長軸方向成分が推定した推進方向加減速と部分的に一致したことから、この知見を活用することで加減速のリアルタイムフィードバックを実現することとした。慣性センサにより計測した加速度の1成分を抽出し、その信号の大小を音周波数の高低と対応させ、これを防水型骨伝導ヘッドフォンで出力するデバイスを開発した。これにより慣性センサを内蔵したロガー部を腰部に、ヘッドフォンを頭部に装着するだけで、聴覚フィードバックを実現可能とした。またロガーに内蔵したメモリに記録することで、泳試技後の遅延的フィードバックも可能となった。今後、このシステムを使用したトレーニング実験を実施し、加減速フィードバックのトレーニングへの効果について検討していく。
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