本年度は身体部分の質量、質量中心位置、慣性モーメント(総称して身体部分慣性係数;以下、BSP)を実測し、これらの個人の特性が動作にどのように影響するかを検討した。 まず、ボディーラインスキャナー(BLS)により得られた3次元人体形状をもとに、3次元CADソフトのより被験者本人の身体部分体積や密度1とした場合の慣性モーメントを算出した。さらに核磁気共鳴装置(MRI)による各身体部分断面映像から、組織面積をもとに部分密度を推定した。体積や密度1とした慣性モーメントに部分密度を乗ずることにより被験者本人の身体部分慣性係数(BSP)を算出した。昨年度までに取得していた走動作データを対象に、本人のBSPを用いて関節トルクパワーや総パワーを算出し、これらを部分長と体重のみから推定される従来のBSP推定値を使用した場合と比較した。さらに、本人のBSPを用いた際の関節トルクパワーや総パワーを基準に、他人のBSPを用いてシミュレーションした際のパワーの挙動を検討した。 その結果、BSP自体は実測値と推定値で大きく異なる被験者もいたが、走動作中の下肢関節トルクパワーや総パワーは、いずれの被験者においても実測値を用いた場合と推定値を用いた場合との相違は小さかった。他人のBSPを仮想的に適用すると数W/kgの総パワーの差は生じたが、いずれのBSPを適用した場合でも被験者間の平均パワーの大小関係が逆転することはなかった。以上の結果から質量分布、すなわち身体のどこに質量が集中しているは、どのような走動作であったかということに比べて走効率への影響は小さいことが明らかになった。
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