肥満を呈したラットの脂肪分解に対する運動効果を検討した。高カロリー食を与え肥満を呈したラット(Wistar系雄性)に対し、トレッドミルを用いた持久性運動(スピード30m/min、傾斜0度、運動時間60min/day、頻度5days/wk)を6週間施し、白色脂肪組織(精巣上体)における脂肪分解に関わる種々のタンパク質の発現量を解析して、非トレーニング群と比較した。持久性運動トレーニングによって、脂肪分解関連タンパク質、すなわち、脂肪滴結合タンパク質ペリリピンやCGI-58、さらに脂肪分解酵素であるホルモン感受性リパーゼ(HSL)やトリグリセリドリパーゼ(ATGL)の発現量は概ね2倍程度の増加を示した。また、ミトコンドリアの機能を統合的に正に制御すると考えられる転写コアクチベーターPPARγ coactivator (PGC)-1αや、電子伝達系で機能するcytochrome c oxidase (COX)の発現量は増加していた。これらのタンパク質の増加によって脂肪動員が亢進し、内蔵脂肪量の減少に繋がったものと考えられる。 次に、上記の持久性運動効果が、運動によって産生される乳酸に起因するのではないかと仮説をたて、その検証を行った。3T3-L1脂肪細胞に10mMの乳酸を添加し、6時間インキュベートした後、通常の培地に交換して18時間インキュベートしたところ、PGC-1αをはじめ、HSLやATGLといったリパーゼ、さらにはペリリピンやCGI-58の発現量が有意に増加した。また、脂肪分解活性も有意に増加した。 脂肪分解制御機構に対する持久性運動トレーニングの効果として、脂肪分解に関与するタンパク質の発現量やミトコンドリアバイオジェネシスを増加させることが明らかとなった。この分子メカニズムのひとつとして、運動中に産生される乳酸が関与している可能性が示唆された。
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