運動は、インターロイキン6(IL-6)の増加を介して筋サテライト細胞の増殖を促すことが示唆されている。一方、サルコペニア発症者では安静レベルでIL-6が増加し、その増加は筋サテライト細胞の増殖を抑制することが示唆されている。すなわち、IL-6は骨格筋に対して二面性の働きがあるが、その機序については明らかではない。本年度は、IL-6が筋サテライト細胞の増殖能に及ぼす影響とその分子機序を培養実験系にて明らかにすることを目的とした。約11週齢のF344系雄性ラット(n=30)の両脚下肢骨格筋より、研究協力者の町田ら(2004)の方法に従って筋サテライト細胞を単離し、初代培養を行った。単離・培養した筋サテライト細胞を異なる濃度のIL-6(0.01~100ng/ml)で24時間刺激し、細胞数およびBrdUを用いて増殖能を検討した。さらに、IL-6による増殖能の変化に影響を及ぼす分子機序を明らかにするために、細胞内情報伝達系阻害剤(JAK/STAT3系、PI3K/Akt系、MAPK系)を使用し、BrdUを用いて増殖能を検討した。また、細胞周期促進因子であるCyclin D1、その転写因子であるSTAT3タンパク質の核内での発現量を定量するために蛍光二重染色を行い、MyoD陽性細胞数あたりのそれぞれの陽性細胞数の割合を評価した。その結果、IL-6濃度が0.01~1ng/mlまでは、濃度依存的に増殖能が向上し、1ng/ml時にIL-6刺激なし(以下、コントロール)と比較して有意に増加した(P<0.05)。増殖能は、IL-6(1ng/ml)刺激後、6時間でコントロールと比較して有意に増加した(P<0.05)。また、細胞内情報伝達系阻害剤によって、6時間でみられた増殖能の増加がJAK/STAT3系およびPI3K/Akt系阻害剤によって有意に抑制された(P<0.05)。さらに、IL-6(1ng/ml)刺激後、3および6時間でコントロールと比較して、それぞれSTAT3およびCyclin D1の割合が有意に増加した(P<0.05)。したがって、IL-6が濃度依存的に筋サテライト細胞の増殖能に影響を及ぼすこと、さらにJAK/STAT3、PI3K/Akt系を介してCyclin D1の発現量を増加させることによって増殖能を調整していることを明らかにした。
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