研究概要 |
絶食時の筋萎縮に関する報告では,遅筋(遅筋線維が多くを占める)に比べ速筋(速筋線維が多くを占める)で萎縮の程度が顕著であることが示されている。このため,特にハイパワーを発揮するようなスポーツ種目における速筋の筋量低下は,競技力発揮の重大な障害と成り得るが,なぜ絶食時に速筋で萎縮が進行するのかは不明であった。そこで、筋タイプで異なる絶食時の筋萎縮を説明する要因として,遅筋と速筋の収縮活動レベルの違いに焦点を当て,速筋である足底筋への代償性過負荷によって活動量が増加した筋への絶食の影響をオートファジー制御という点から検討を行った。実験には、Fischer系雄ラットを、(1)コントロール群、(2)絶食群(2日間)、(3)代償性過負荷群(下腿部のヒラメ筋と腓腹筋を切除する代償性過負荷を2週間実施)、(4)絶食+代償性過負荷群、に分類した。まず、絶食時の筋萎縮の影響を検討した結果,絶食による足底筋の萎縮率が,絶食群では19%であるのに対して絶食+代償性過負荷群では10%であり,過負荷により絶食時の萎縮進行が軽減されることが明らかになった。また,オートファジーのマーカータンパク質であるLC3-IIを用いた検証でも、絶食時の誘導レベルが代償性過負荷によって軽減される傾向が認められた。さらに,タンパク質の合成経路であるmTORのリン酸化レベルは代償性過負荷を加えることによって,絶食時の低下が抑制されることが明らかになった。このような結果は、絶食に伴う速筋で顕著な筋萎縮の進行に,オートファジーの誘導レベルやタンパク質合成率の違いが深く関わる可能性を示唆するものであった。本研究の知見は,絶食時の遅筋と速筋における違いが,機械的な負荷頻度の違いのような筋特性に起因するものであることを推察させるものであった。
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