本年度は、女性の性周期や性差が体温上昇にともなう換気亢進反応に及ぼす影響について検討することを目的として、実験を行った。 被験者は性周期の安定している健康な女性10名と健康な男性8名であった。実験では、最高酸素摂取量の測定と暑熱下運動テストを行った。暑熱下運動テストでは、環境温25℃、湿度50%に設定した室内で最高酸素摂取量の50%に相当する強度の自転車運動を行った。運動中、食道温、換気量、皮膚血流量、心拍数などを測定した。実験で得られた換気量の値を食道温に対してプロットし、食道温上昇に対する換気量の変化を評価した。また、女性においては、皮膚血流量の値を食道温に対してプロットし、皮膚血管拡張反応を評価した。 運動中の食道温は、性周期間で比較すると黄体期で卵胞期よりも高く、性差間で比較すると運動後半に男性で女性(卵胞期および黄体期)よりも高かった。換気量は、性周期間で比較すると黄体期で卵胞期よりも高く、性差間で比較すると男性で女性(卵胞期および黄体期)よりも高かった。食道温に対して換気量をプロットし、直線回帰分析を行った結果、回帰直線の傾きおよび切片に差はなかった。また、運動5分時の換気量の値を100%とした相対値を用いて直線回帰分析を行っても、傾きや切片に差は見られなかった。皮膚血管拡張反応に関しては、黄体期で卵胞期よりも皮膚血管拡張の深部体温閾値が高くなった。 深部体温上昇に対する換気量の反応には性周期や性差による違いが見られないが、皮膚血管拡張反応においては性周期で違いが見られることが示された。これらのことから、深部体温上昇による換気亢進反応には性周期や性差による違いがほとんど見られないこと、皮膚血管拡張反応とは反応が異なることが示唆された。
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