研究概要 |
本研究では、過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome : IBS)に関連した認知的要因の変容を促すことにより、不安、症状悪化に関連する生理的要因(副腎皮質ホルモンであるコルチゾール・DHEA)、IBS症状への効果を検討した。 協力者が目標人数に達していないため、今後もデータ収集を継続する予定である。 現時点では、大学生7名から、IBSに関する症状、認知、情動について尋ねる自己記入式質問紙のデータとコルチゾール、DHEAを測定するために採取した唾液検体が得られている。唾液検体を分析済みのデータから、認知的介入によって腹部症状に関連した認知や不安が適応的な方向に変容し、それにともなってコルチゾールおよびDHEAが変化し、腹部症状が改善する傾向が見られた。 我々の最近の調査研究(Sugaya et al.,2011)では、不安感受性→腹部症状に対する認知的評価(コントロール可能性以外)→不安感情の仮説的モデルは高い適合度を示しており、一方、IBSにおける心理社会的ストレス負荷時のストレッサーへの認知的評価と副腎皮質ホルモンの関連を検討した我々の研究(Sugaya et al.-in press)では、IBSではコルチゾール/DHEA比とストレッサーへのコントロール可能性の相関がより顕著であったことが示されている。これらの最近の知見から、本研究において認知の変容によって不安感情の軽減を介して副腎皮質ホルモンが変化して腹部症状が改善するプロセスと、不安感情を介さず認知の変容が直接的に副腎皮質ホルモンを変化させて腹部症状を改善させるプロセスは、関与する認知的評価の種類が異なる可能性がある。この観点から検討していくことも、大いに臨床的意義をもたらすと考えられる。 IBSにおける認知的要因の変容が腹部症状緩和に至るまでの心理的・生理的過程を明らかにすることで、より効率的な心理的介入の実施が可能になると考えられる。
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