近代社会が抱える大きな問題のひとつに、うつ病や機能性消化管障害などの精神身体疾患の増加が挙げられる。これは、過剰なストレスにより誘発された自律神経機能異常や免疫機能異常が原因のひとつであると考えられている。こうした精神身体疾患の予防のために、近年「幸福感」などのポジティブ感情が身体に及ぼす影響が注目されている。そこで本研究では、幸福感の脳神経基盤および幸福感が脳と身体の機能的関連に及ぼす影響を明らかにすることを試みた。実験の結果、高幸福群では低幸福群に比べて発熱・発火などの炎症反応を誘発する免疫物質である炎症性サイトカイン濃度が低く、ポジティブ感情喚起と関連がある内側前頭前野や腹側線条体(脳内報酬系)の活動が高いことが明らかとなった。また、幸福感に関連する神経伝達物質を探索したところ内因性カンナビノイドが候補に挙がり、カンナビノイド受容体CC/CT遺伝子型群(カンナビノイド機能が高い)では、TT群(カンナビノイド機能が低い)よりも主観的幸福感が高いことや末梢炎症性サイトカイン濃度が低いこと、そして内側前頭前野活性が高いことが示された。 本研究から、幸福感を維持するメカニズムとして脳内報酬系機能、炎症性サイトカイン、内因性カンナビノイドの関連が示唆された。本研究の研究成果から今後心身の健康を維持するための予防医学的アプローチなどが展開されていくことが期待される。
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