平成20年版国民生活白書によれば、最近10年間でストレスを感じている日本国民の割合が増加し、ストレスが原因とされるうつ病を含む精神・身体疾患に分類される推計患者数が2倍近く増加したと報告されている。本研究では、先行研究で疾病率や致死率との関連が見出されている「幸福感」に着目し、幸福感と身体機能との関連を分子・神経レベルで明らかにし、それに基づいた疾患予防と心身の健康増進に効果的な心理学的方略を提言することを目的とした。今年度は、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて幸福感を生み出す神経メカニズムを明らかにするとともに、現代社会の過剰なストレスに対処するための心理学的方略(認知法)を検討した。対人関係などの社会生活におけるストレスに対応するための能力(ストレス耐性)のひとつとして、ネガティブな状況の中でもポジティブなことを考え出すことが出来る認知的能力(Positive Reappraisal)が考えられる。今年度の研究結果により、Positive Reappraisalを行うとポジティブ気分が高まり、腹内側前頭前野が活性化されること示されたとともに、Positive Reappraisalの能力が高い個人は主観的幸福感が高いことが明らかとなった。また、幸福感自体も腹内側前頭前野機能により生み出されることが明らかとなった。これらのことから、物事のよい側面に目を向ける認知的方略であるPositive Reappraisalは腹内側前頭前野を活性化することで幸福感を高め、疾患予防と心身の健康増進に効果的な心理学的方略である可能性が示された。
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