研究概要 |
強い力の発揮や不適切な姿勢がない場合でも上肢の筋骨格系障害が生じえることが知られている.中でも製造業の組立作業における指の押す・摘む・捻ることを要する長時間の反復作業は,上肢の健康障害を増強させる低強度の作業である.このような反復作業では,皮膚・関節・腱・靭帯などの痛みが想定されるが,いずれも主観的な訴えであり,客観的検査でそのような所見を確認することは困難とされている.その背景には,実現場で発揮力を定量評価する手法が確立されていないことが挙げられる.米国の国立労働安全衛生研究所による疫学調査(NIOSH 1997)によると,手根管症候群や腱鞘炎のリスク要因として,動作の反復・力・肢位・振動を挙げているが,量的な限界値を決めるほどの疫学データは見あたらない.反復作業の評価と計画に関する強度データは米国政府産業衛生会(ACGIH 2001)等から提供されているが,これらの強度データは,最大随意労作(Maximum Voluntary Exertion : MVE)を計測し,強度をパーセンテージで補正した値である.従来の力の強度限界は,発揮力の最大値を基礎としているため,組立作業のように反復して長い期間の作業を安全かつ健康に遂行できることを必ずしも保証するわけではない.本研究では,反復作業を前提とした手指の発揮力の許容限界(Maximum Acceptable Limit : MAL)に着目し,押し力と作業要因の効果を明らかにする.また,実験検討に基づき,手指の発揮力の許容限界を評価する実用化をめざしたシステムを考案し,その効果を検証することを目的とする.今年度は、手指の発揮力を計測するための力覚センサの動作確認と,組立ラインの作業状況を模擬して,繰り返し回数および押し方向の影響について評価できる実験環境の整備を進めた.今後は,モデル実験を行い,評価システム製作に展開していきたい.
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