研究概要 |
我々はこれまで,単なる外出頻度ではなく,広範囲な外出に関係すると考えられる自転車や乗物(自家用車,バス,電車など)の利用頻度を評価し,これらの利用頻度が少ない高齢者ほど,身体活動量が少なく身体機能が劣っていることを明らかにしてきた。本研究では,この自転車や乗物の利用に関する報告の発展的研究として,移動手段に対応した外出範囲(歩行範囲,自転車範囲,乗物範囲)が,高齢者の心身・社会機能を反映するかについて横断的・縦断的視点から検討した。 横断調査の対象;2009年から2011年に茨城県笠間市の住民基本台帳より無作為抽出された65歳から85歳の高齢者3,000名のうち,測定会に参加した570名分析対象とした。 縦断調査の対象:2009年度の調査に参加した213名の内,2010年度ならびに2011年度の調査に継続して参加した49名を分析対象とした。 外出範囲の評価:平均的な一週間を想定させ,「歩行で行くことができる範囲」,「自転車で行くことができる範囲」,「乗物で行くことができる範囲」のうち,いずれの範囲で外出することが多いかを尋ねた。 検討の結果,横断調査では,主な外出範囲が「歩行範囲」にとどまる高齢者の身体活動量,身体機能,認知機能,心理状態,社会交流は,有意に低水準であることが明らかとなった。縦断調査では十分な追跡期間,対象者数を用意できていないため,因果関係にせまるような分析はできなかった。しかし,「歩行範囲」にとどまる高齢者の心身・社会機能は,2年間を通じて他の群に比して低水準のままであり,好転する様子が見られないことがわかった。我々のコホート調査は,現在も引き続き実施しており,対象者数も増加している。数年後には,縦断調査によって得られた質の高い成果を公表する予定である。
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