細胞・個体老化において、近年、栄養制御と老化の関係が注目されており、mTORシグナル、ERストレスがこれらに関与していることが明らかとなってきた。GADD34はERストレスなどで誘導されるが、栄養ストレスでも発現が上昇すること、さらにmTORシグナルに関与することから、老化にも重要な役割を果たしていると考えられる。本年度は、in vivoにおける絶食ストレスにおけるGADD34の役割について解析をおこなった。GADD34 ノックアウト(KO)マウスと正常マウス(WT)に48時間まで絶食ストレスを加えたところ、肝臓で、GADD34 KOマウスに比べ、WTマウスでは、細胞浮腫、細胞内空胞の増加といった組織の変化がより多く見られた。また、絶食ストレスにより、肝臓でGADD34の発現が増加することが明らかとなった。栄養環境が悪化すると、蛋白質のリサイクルを行うなど生体の恒常性維持に重要な機構であるオートファジーが起きることから、GADD34 のオートファジーの機構への関与について解析した。絶食後の肝臓でのオートファジーのマーカーの一つであるLC3II/I比、また、電子顕微鏡によるオートファゴゾームについて調べた結果、GADD34 KOに比べ、WTではよりオートファジーが促進していることが明らかとなった。さらに、オートファジーが起きるシグナル伝達経路との関係について調べた結果、絶食ストレス下で、GADD34はTSC2と結合してリン酸化を抑制し、mTOR活性を抑えることにより、オートファジーをより誘導させているというメカニズムが明らかとなった。これらの結果から、GADD34はmTORシグナル経路を抑制することにより細胞増殖抑制、ストレス抑制に働き、GADD34 KOマウスに比べ寿命延長に寄与しているのではないかと考えられた。
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