研究概要 |
高齢者の転倒は骨折や寝たきり、要介護の原因となり、生活の自立度を損なわせるばかりでなく、QOLの著しい低下をも引き起こし、その結果として我が国の医療・介護費の増大を招いている。本研究はヒトの歩行時における転倒予防のための基礎的検討として、転倒を感知する各種感覚(前庭、視覚、および体性感覚)の閾値と優先度を明らかにすることを目的とした。研究実施計画に従い、本年度はこの目的を達成するための実験システム構築を行った。歩行時には、歩行路面と爪先間クリアランスが最小となる局面において転倒が発生しやすい。本研究では被験者に対しこの歩行局面の姿勢を取らせた上で、被験者の前庭、視覚、及び体性感覚のそれぞれに転倒の感覚を与えるための実験システム構築を試みた。前庭覚にのみ転倒感覚を与えるシステムでは、足底体性感覚入力を減じるためのフォームラバー、傾斜台及び視賞入力操作の為のヘッドマウントディスプレイ(HMD)を利用した。視覚にのみ転倒感覚を与えるシステムでは、フォームラバー及びHMDを利用した。体性感覚にのみ転倒感覚を与えるシステムでは、水平移動台及びHMDを利用した。これら3システムを用い、1名の健常男子学生に転倒感覚を与え、転倒回避動作(転倒を回避するためのステッピング動作)発生の有無を確認した。測定項目は足関節周囲筋群および膝進展筋群の表面筋電図(サンプリング周波数1,000Hz)とした。唯一、視覚への転倒願覚による転倒回避動作は他の感覚に比較し非常に小さかった。この結果を踏まえ、動的姿勢制御における視覚の貢献度を確認するための実験を追加実施した。この追加実験では、健常男子学生15名の足圧中心動揺を計測し、安静時と動的姿勢制御時における視覚の貢献度(Romberg率)を比較した。その結果、安静時に比べ動的姿勢制御時の視覚の貢献度は有意に小さい(p<.05)ことが確認された。
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