脳において加齢によりニトロ化タンパク質の1つであるニトロチロシン含有タンパク質が増加し、その増加は加齢による記憶・学習機能の低下や神経変性疾患と関係していることが示されている。一方、我々は新規ニトロ化産物としてニトロトリプトプァン(6-NO_2Trp)含有タンパク質を見出し、培養細胞や炎症疾患モデルマウスにおいて6-NO_2Trp含有タンパク質を同定してきた。しかしながら、生体内の生理的過程においてどのようなタンパク質のトリプトファン(Trp)残基がニトロ化されているのか、また加齢や運動によりTrp残基のニトロ化に変化が生じるのか否かは明らかにされていない。そこで本研究では脳の中でも走運動により神経活動が活性化する海馬における6-NO_2Trp含有タンパク質を同定すること、また加齢及び走運動によるそれらの量的、質的な変化を明らかにすることを目的とした。実験動物は6ヵ月(6m)と12ヵ月齢(12m)の雄のF344/Nラットを用いた。6-NO_2Trp含有タンパク質は2次元電気泳動及び抗6-NO_2Trp抗体を用いたウェスタンブロッティング(WB)を行い、抗体に陽性のスポットをトリプシン消化後LC-ESI-MS/MS解析を行って、タンパク質の同定とニトロ化部位の決定を試みた。走運動はトレッドミルで行わせた。実験の結果、6mのラットの海馬から多くの抗6-NO_2Trp抗体陽性スポットが検出され、これらのスポットの中から解糖系の酵素などを含む12個のタンパク質を6-NO_2Trp含有タンパク質として同定し、生体内の生理的過程においても6-NO_2Trp含有タンパク質が存在することが初めて明らかとなった。次に加齢の影響を検討した結果、6mと12mでは6.NO2Trp含有タンパク質の含有量やスポットの変化は認められなかった。一方、走運動は海馬の6-NO_2Trp含有タンパク質を増加させる傾向を示した。
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