研究概要 |
これまでに報告されている運動時光計測の殆どは筋酸素動態の変化であり,血液量変化(Δtotal-Hb)に着目した研究は非常に少ない.その主要因として,Δtotal-Hbの定量的評価が大変困難であることが挙げられる.近年我々は,皮下脂肪層が光計測に与える影響の補正法について報告しており,この手法を用いることでΔtotal-Hbの定量的計測が可能となった。最近の我々の研究(Kime et al. 2009)では,固定負荷運動時におけるΔtotal-Hbの増加量(f-Δ[tHb])を評価した結果,Δ酸素化ヘモグロビンの増加量(f-Δ[oxy])との間に有意な正の相関関係が確認されたことから,固定負荷運動中における筋組織血液量の増加は,運動誘発性の末梢血管拡張に起因すると推察される.このf-Δ[tHb]に関する報告は現在までのところほとんど見当たらなかったので,局所血流分布に影響を及ぼすと考えられるf-Δ[tHb]の部位差について検討することを目的とした.まず,f-Δ[tHb]に影響を及ぼすと考えられる皮膚血流量の影響を調べるために,レーザードップラー装置を用いて運動時における皮膚血流量変化を測定し,f-Δ[tHb]との血行動態について比較検討している.これまでに10名程度のデータを計測し終えており,現在も継続して測定中である.また,送受光間距離を0.2cmと3cmに配列したプローブを作成し,(静岡大学工学部の庭山雅嗣氏に研究支援者として依頼),0.2cmの受光部より得られるシグナルを皮膚血流量,3cmの受光部より得られるシグナルを筋組織dominantとし,Δtotal[Hb]に対する皮膚血流量の影響を検証する.こちらに関しては,測定装置の改良に時間がかかったため,今年度の5月頃から計測を開始する予定である.更に,多チャンネル型NIRSプローブを用いて,大腿部前面(大腿直筋,外側広筋,内側広筋)におけるf-Δ[tHb]の部位差については,本学附属病院に通院している慢性心不全(CHF),冠動脈疾患(CAD),閉塞性動脈硬化症の患者を対象にして,健側との比較・検討するために,現在もデータを蓄積中である.
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