研究概要 |
我々は以前に,固定負荷自転車運動時において,酸素化ヘモグロビン(Δ[oxy])および総ヘモグロビン(Δ[tHb])が増加する現象を報告した.この血液量の増加(f-Δ[tHb])は末梢組織の血管拡張に起因すると考えられるが,近赤外分光法(NIRS)は表層の情報を強く反映するため,f-Δ[tHb]が皮膚血流量(sBF)の増加による影響の可能性も否定できない,そこで本研究では,固定負荷運動時における血液・酸素動態とsBFを同時に測定し,f-[tHb]に及ぼすsBFの影響について検討した.健康な成人男性10名を対象に,1分間の空漕ぎ(0W)の後,中強度および高強度の負荷でそれぞれ6分間の自転車運動を行った.NIRSを用いて,運動時におけるΔ[tHb],Δ[oxy]および筋組織酸素飽和度(SmO_2)を計測し,併せてレーザー式組織血流計を用いてsBFの変化を記録した.外側広筋の筋腹上にプローブを貼付した.なお,固定負荷運動開始から1分以内におけるΔ[tHb]およびΔ[oxy]の最低値から運動終了直前までにおける最高値との差をそれぞれf-Δ[tHb],f-Δ[Oxy]として評価した.その結果,空漕ぎ開始と同時にsBFは急激に増加したが,Δ[tHb],Δ[Oxy-Hb]およびSmO_2は顕著な変化が観察されなかった.中強度負荷では運動継続に伴いΔ[tHb],Δ[Oxy-Hb],およびSmO_2はそれぞれ有意に増加したが,sBFは殆ど変化しなかった.高強度負荷時におけるΔ[tHb],Δ[Oxy-Hb]およびSmO_2は,運動継続に伴う顕著な変化がみられなかった.また,中強度運動時におけるf-Δ[tHb]とf-Δ[oxy]の間には有意な正の相関関係が得られた.更に,理論上は表層部(皮膚表面)の影響を受けないとされるSmO_2においても,中強度運動時では運動継続に伴い有意に増加した.固定負荷運動中におけるΔ[tHb]の変化が皮膚血流量の変化と全く異なる動態であったこと,ならびに中強度運動時におけるf-Δ[tHb]がf-Δ[oxy]との間には有意な正の相関関係が得られたことから,f-Δ[tHb]は筋組織内の末梢血管拡張反応に起因する可能性が高いことが示唆された.
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