研究概要 |
魚油に含まれるオメガ3系脂肪酸には心臓血管系疾病による死亡リスクを高齢患者において下げるだけでなく,このリスクファクターであるアテローム性動脈硬化の進行を中年において遅らせる効果がある。しかしながら,その背景機序には不明な部分が多い。そこで本研究の目的は,心臓血管系疾病の進行を前臨床段階から増長すると考えられている精神的ストレス負荷時の心臓血管系反応に注目し,オメガ3系脂肪酸の摂取がこれに与える影響を明らかにすることであった。 本年度は,「オメガ3系脂肪酸群」対「プラセボ群」による二重盲検ランダム化比較試験(平行群間比較試験)を実施した。対象者は21-37歳の男女24名であり,オメガ3系脂肪酸(EPA:1440mg,DHA:540mg)もしくはプラセボとしてその他の脂肪酸(菜種油:1692mg,大豆油:900mg,オリーブ油:900mg)入りのカプセルを12週間摂取し,その前後それぞれにおいて暗算課題を実施した。測定指標は,最高・最低・平均血庄,心拍数,唾液MHPG,唾液コルチゾール,s-IgAであり,暗算前,暗算中,暗算終了15分,30分後の4点で計測した。またカプセル摂取前後において採血を行い,赤血球膜中のオメガ3系脂肪酸の濃度も測定した。 実験の結果,オメガ3群における,赤血球膜中のオメガ3系脂肪酸濃度の顕著な上昇が認められた。また,摂取後における,顕著な最低血圧の低下も認められた。しかしながら,その他の指標においては,摂取前後における有意な差,加えて,割り当てられた群の違いによる有意な差は認められなかった。これらの結果は,オメガ3系脂肪酸が,ストレス状況の認知的解釈や対処方略という中枢側の要因ではなく,動脈機能の上昇といった末梢側の要因を介して,ストレス負荷時における過度の心臓血管系反応の誘発を抑制することを示唆している。
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