これまでに、食品に含まれる食中毒菌の高感度測定法や迅速検出法などについて報告がなされているが、それらの方法の実施は個人経営では設備的、知識的に対応困難である。そこで、本研究では、食中毒菌の産生する不快臭の前駆体の探索及びその不快臭の前駆体を利用した微生物検査法の開発を行う。本年度は、以下のことを明らかにした。 1.握り飯等の食品中で黄色ブドウ球菌が増殖した場合、不快臭を生じないが、BHI培地等の培地中で培養すると不快臭を生じる。そこで、不快臭の前駆体を探索するため、各種培地成分を用いて、黄色ブドウ球菌培養時に最も強く不快臭が生じる成分を探索した。その結果、トリプトン添加培地で最も強い不快臭が生じた。 2.トリプトン由来の不快臭の前駆体の精製を各種クロマトグラフィーを用いて行い、得られた物質を各種機器分析で同定した。トリプトン由来の不快臭の前駆体は、L-leucine(Leu)、L-tyrosine(Tyr)、L-methionine(Met)であり、これらを少なくとも2種類以上混合することで不快臭が生じた。生じる不快臭として、Leu由来のisovaleric acid、2-hydroxyisocaproate、Tyr由来のphenylcarboxylic acid、Met由来のmethanethiol等が関与していることが推察された。 3.不快臭の前駆体であるLeu、Tyr、Metの不快臭の最も強い濃度となる組み合わせと添加量について検討した。その結果、Leu5.0mg/mL+Tyr0.03mg/mL、Leu5.0mg/mL+Tyr0.03mg/mL+Met5.0mg/mL、Met20mg/mL+Tyr0.003mg/mLの割合で不快臭の前駆体を添加した際に最も強い不快臭を生じることを明らかにした。
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