本研究は、食中毒菌が産生する固有の不快臭を用い、特別な研究設備や機器等を使用しない簡易・迅速に食中毒菌の有無を判定できる微生物検査法の確立を目的として、黄色ブドウ球菌が産生する不快臭の前駆体の探索及び本菌が不快臭の前駆体を代謝することによって生じる臭気物質の同定・定量を行った。その結果、以下のことを明らかにした。 1.黄色ブドウ球菌が産生する不快臭の前駆体はL-leucine(Leu)、L-tyrosine(Tyr)、L-methionine(Met)であり、これらを少なくとも2種類以上混合することで不快臭が生じることを明らかにした。 2.不快臭の前駆体添加時の黄色ブドウ球菌が産生する臭気物質について調べたところ、黄色ブドウ球菌がLeuを代謝することによって生じる臭気物質としてisovaleric acid(IA)及び2-hydroxy-4-methypentanoic acid(2H4M)を、Tyrを代謝することによって生じる臭気物質として、2-phenypropanoic acid(2PPA)を同定した。 3.2H4M及び2PPAは、単独では臭気を生じない濃度であるがIAと混合することにり、IA単独時より臭気が増強され、黄色ブドウ球菌がLeu及びTyrを代謝することによって生じる臭気物質の臭気に対する相乗効果が認められた。 4.不快臭の前駆体が菌の増殖と毒素の産生に及ぼす影響について調べたところ、基礎培地のみで培養した場合と、Leu及びTyrを添加したて培養した場合で、菌数も毒素産生量もほぼ変動しなかったことから、不快臭の前駆体は、菌の増殖と毒素の産生に影響を及ぼさないことが示唆された。 今後、食品に対するLeu及びTyrの添加方法等の検討を行うことで、食中毒菌の有無を判定するための特別な設備を必要としない微生物検査法を確立することが可能となる。
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